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HARRYS 

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彼女のアトリエは、東京の下町にある自宅の一室。
築50年の懐かしさが漂う家の中に入ると、
ガスボンベや剥き出しの大きなダクト、ガスバーナーなど、
制作のために必要な設備や道具類が、目に入る。

無骨な機器類とは対照的に、部屋のあちこちには、
綺麗な色を残したドライフラワーが、飾られている。
「生花よりも、ドライフラワーが好きなんです」
そう言って、ガラスケースに入れて大切にしている
植物の葉脈を見せてくれた。


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彼女のつくる細かな網目状の作品は、
一見、何かの型にガラスを流し込んでつくっているかのように見える。
しかし、それは、まったくの見当違い。
実際につくるところを見せてもらうと、
気の遠くなるほど緻密な作業に、心底驚かされた。

「材料は、細いガラス棒です。
それを、炎で溶かして、ピンセットで、くるっと返して、丸をつくります。
一つ一つつくった丸を、割れないように、しっかりと溶着します。
それを繰り返すことで、網目状にしているんです」

そうして、できた作品は、琴さんが大切にしている
葉脈のドライフラワーを、どことなく彷彿とさせる。

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琴さんは言う。
「何かの拍子で偶然いいものができたとしても、
もう一度同じようにつくれるとは限らないし、
つくらないのが作家だと思う。
だから、『なんとなくできちゃった』は、イヤ。
それに私が今、つくっているものは、誰かが身につけたり、
日常生活の中で使ったりするもの。
偶然できた歪みが、どんなに美しくても、
簡単に壊れるようでは、ダメだと思うんです」


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だから、彼女は、強度もすべて計算した上で、
あえて不揃いな丸をつくり、わざと歪みを持たせる。
それによって、はじめて繊細さと強さが同居した、
美しい作品が生まれるのかもしれない。


HARRYS 土屋琴さん 「繊細さの中に同居する強さ」
BonAppetit-10(2011年6月発行)より改変

text by Tomomi Igarashi

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by bonappetit2007 | 2011-08-01 18:18 | 作家
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